メリケンじいさんの昔話《第二回 酔族館は住職さんとお友達①》


『地下水道の月』というお芝居があった。舞台の端から端まで全て階段状に設えた画期的な舞台である。
得意の単管パイプと足場板で組上げた。客席奥からの花道にはトロッコの走るレールが敷かれ、そのまま舞台中央奥の月に向かってレールがせり上がってゆく。
ラストシーンでは、主人公を乗せたトロッコが月に向って登ってゆくという、関西小劇場界初の(たぶん)スペクタクルシーンが描かれた。(嘘のようなホントの話)
岡野館長:「すみの〜(メリケン小次郎)こんな危ない舞台いきなり本番やったら死人が出るぞ。」
うちの館長の口癖は「死人が出るぞ」である。
メリケン:「大丈夫です。どこか適当な場所を見つけて、とりあえず舞台作って、そこで立ち稽古とか出来るように綿密に計画を立てています。」
岡野館長:「どこか?適当?とりあえず?アホか!どこが綿密な計画じゃ!」
メリケン:「いや…いや大丈夫ですって!」
大丈夫でない事は誰の目にも明らかだった。
そんなこんなで時が過ぎ、そのとんでもない杜撰な計画は実行に移された。トラックに満載された単管と足場板と無数のクランプ。2tトラックは悲鳴を上げながら北へ!北へ!
〈つづく〉


